夜を歩く
1年ほど前に早稲田松竹でエルマンノ・オルミの『木靴の樹』という映画を観ました。文益小作農場に住む人たちの物語です。穏やかな農場の映像は絵画的で、ぼんやりした夢のような良さを持っています。でも動物屠殺シーンがリアルで怖かった。生きることは食べること、生きることは祈ること、生きることは他者と関わること…そういう大切なことが描かれている美しい映画です。
前置きはこれくらいにして、少し前に、その映画からインスピレーションを受けて詩を書きました。折角なので掲載することにします。
夜を歩く
まだ咲いたばかりの
サフランの花を
そっと摘みとるときの
燈火の幻
真夜中に
きみを探しに表に出ると
マンフレディーニのピアノ曲が
壁に反響している
子供のささやく声が
そこらじゅうから聴こえる
(壁の近くは 暖かいから
木を植えるときはそこに植えよう)
(夢の近くに 家をかまえて
いつでも行き来できるようにしよう)
月はだんだん西へと落ちていく
月のまわりは まるで
幻のように明るさを保っている
絵本をめくるときの
小さな喜び
疲れきって
休息を乞うときの
夜への安らかな気持ち
月は朝になると消えてしまう
魔法でも何でもなく